高容量・長寿命という相反する性能を同時に追求するリチウムイオン電池(LIB)は、電解液に含まれる微量添加剤の進化によって大きく変わろうとしている。その中でも注目を集めているのがビニレンカーボネート(VC)だ。本稿では、シリコン負極の安定化とバッテリー寿命延伸に果たすVCの化学的役割を整理し、次世代エネルギーストレージの鍵を探る。

シリコン負極は理論容量が既存の黒鉛の約10倍と豊かだが、充放電に伴う最大300%の体積膨張・収縮が課題となる。機械的応力により負極粒子は微粉化し、負極表面に形成される固体電解質界面膜(SEI)は繰り返し破壊・再生を繰り返す。その結果、電解液の分解が加速し、容量の急激な劣化を引き起こす。VCを電解液に少量添加することで、シリコン表面に柔軟かつ緻密なSEIが構築され、体積変化を緩衝する保護層として機能。サイクル寿命の大幅な向上につながっている。

最新研究では、VC単体ではなく、DMVC-OCF3やDMVC-OTMSなどの専用添加剤との併用で相乗効果が得られることが報告されている。たとえばDMVC-OTMSは、LiPF6の分解によって生じるフッ化水素酸(HF)を捕集・無害化するスカベンジャーとして働き、SEIだけでなく正極表面皮膜(CEI)の侵食を防ぐ。HF濃度を低下させることで、皮膜の化学的および機械的耐久性が向上し、高温保存特性やサイクル性能へ好影響を与える。

これらの電解液設計は、EVやモバイル機器に要求される高速充電実現にも直結している。安定したSEIにより界面でのLiイオン拡散抵抗が低減し、高電流密度条件下でも容量維持率が高いまま充放電可能になる。複合添加剤を用いた電解液では、従来比で急速充電時の容量劣化20〜30%削減を達成するケースも報告されている。長距離移動やスマートデバイスの連続稼働時間延伸に貢献する。

要するに、VCは「添加剤」ではなく「設計要素」。高容量シリコン負極が有するポテンシャルを100%開花させるための化学的基盤であり、今後のエネルギー密度向上、急速充電対応、寿命延伸のすべてに寄与する。電解液の組成最適化は、次世代リチウムイオンバッテリー開発の最重要課題である。