氷点下の凍結から炎天下のオーバーヒートまで、現代のエンジンは苛酷な環境にも耐え抜く必要がある。そんな過酷な条件下でも常に安定した性能を保つために不可欠なのが、エチレングリコール(EG)だ。この化合物は水と混ぜることで冷却液の凍結温度を著しく低下させ、同時に沸点を高めることで、エンジンが凍結して破損するリスクと、高温で沸騰してしまうリスクの両方を防ぐ。

冷却水にEGを加えることで、マイナス30℃を超える低温でも凍らない性能を付与できる。逆に、同じくらい重要なのが沸点上昇効果であり、渋滞時や山道での連続ワインディングなど、高負荷が続く状況でも沸騰させにくく、パワーロスを最小限に抑えることができる。これは熱い地域で活躍する車両や、新型ハイブリッド車が求める高温運転にもマッチする。

EGの真価は、単に凍結・沸騰温度を調整するだけではない。水単体と比べて広い温度帯で液体を維持できること、そして腐食抑制剤と併用して金属部品の腐食を防ぐことで、年間を通じて冷却性能を長期維持できる点にある。この「熱媒体としての幅広いスタビリティ」が、世界中で車載クーラントの基本処方となる理由だ。

自動車生産台数の増加とともに、高純度で品質の安定した'不凍液グレード'のEG需要は拡大し続けている。メーカーは、国際的な性能基準をクリアするために、継続的で安定した供給体制を確保する必要がある。EV化や内燃機関の小型化が進む今後も、動力源の冷却は依然として不可欠であり、エチレングリコールの役割は揺るぎない存在として色褪せることはないだろう。