トリメチルシリルアセチレン(TMSA)、化学名はエチニルトリメチルシラン。常温常圧で液体であるため取扱いが簡便であり、毒性が高いアセチレンガスの代替として、モダン有機合成の最前線に欠かせないスキャフォルド試薬として注目されています。

TMSAの調製はアセチレンの脱プロトン化と次いでのシリル化で一気に進行します。具体的には、アセチレンをn-ブチルリチウムやエチルマグネシウムブロマイドなどの強塩基でリチウムアセチリドあるいはグリニャール試薬に変換した後、クロロトリメチルシランと反応させることで高純度のTMSAが得られます。反応液を減圧蒸留するだけで、GC純度>99%のエンドユーザー品質が確保できます。

反応性の中心は当然のことながら末端アルキニル部位であり、TMS基が電子供与性保護基として働くため、副反応を抑えて選択的な官能基化が可能です。代表的な用途はSonogashiraカップリングリガンド。アリールハロゲン化物やビニルハロゲン化物とのPd触媒クロスカップリングにおいて、TMSAは高い反応効率でC–C結合を形成後、TBAFまたは炭酸カリウムによる簡便な脱保護で末端アルキンを再生し、次段階のダイバーシティ合成に供することができます。

同様の戦略は[3+2]環化付加反応、電子求引基エノールエーテルとのマイケル付加、その他のヘテロサイクル合成へも適用可能です。またシリル化アルキニル化合物としての高い耐水性・耐熱性を生かし、新規有機EL材料やケイ素含有ポリマーのモノマーとしても需要が拡大中です。