長年、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン):ポリスチレンスルホン酸(PEDOT:PSS)は、有機薄膜太陽電池(OSC)における正孔輸送層(HTL)のスタンダードだった。しかし、その酸性が電極を腐食し、長期安定性を損ねる深刻な欠点も抱えていた。

代替技術の最前線で注目を集めているのが「自己組織化単分子膜(Self-Assembled Monolayers:SAM)」だ。単分子層という性質上、界面のエネルギー準位をデザイナー級に精密調整できる。例えば、適切な双極子モーメントを持たせることで電極の仕事関数を自在に変え、正孔のスムーズな抽出を可能にし、OSCの変換効率向上に直結する。

第一の利点は界面強度。リン酸基などをアンカーとするSAMは金属酸化物電極(ITO)に密着し、PEDOT:PSSとは比較にならない接着性を示す。その結果、動作中の劣化が大幅に抑制され、OSCの長期安定性という最重要課題に貢献。

第二は電荷輸送の最適化。PEDOT:PSSのように不規則な分子配列がエネルギー損失を招くことはない。規則正しく配向したSAMにより、ホールトランスポートパスが一本化され、充填因子(FF)とパワーコンバージョン効率(PCE)が向上。これこそHOMO/LUMOレベル精密制御の真髄といえる。

さらにSAMはHTL単独でPEDOT:PSSを置き換えうるため、工程簡略化と同時に酸性を排除したデバイス構造を実現。製造ラインの短縮と信頼性の両立を可能にするOSC用電荷輸送層として注目されている。

ハロゲン置換や共役拡張といった分子設計の深化は、OSCにとどまらずペロブスカイト太陽電池や有機薄膜トランジスタにも波及。今後分子エレクトロニクス界面の研究が拡大すれば、SAMは基盤技術の一角を担うことは必至だ。

まとめると、PEDOT:PSSが果たしてきた役割に感謝しつつ、SAMへ移行することでより高い性能、長寿命、そして製造の簡素化が同時に実現。分子設計の進化はクリーンエネルギーの普及を大きく加速させるだろう。