先端ナノ材料が活躍する現代、開発段階から製造工程までを見据えた設計こそ、その真価を最大限に引き出す鍵となる。電気・機械特性に優れる多層カーボンナノチューブ(MWCNT)は、素材科学における要石的存在だ。その量産化を牽引しているのが化学気相成長(CVD)法だ。高い自由度とコスト競争力を兼ね備えたCVDプロセスにより、MWCNTは実用研究から産業応用へとのし上がっている。

CVD法では、鉄・ニッケル・コバルトなどの金属ナノ粒子を触媒として高温雰囲気中で炭化水素ガスを分解。触媒表面で炭素原子が核となり、同心円状に層を重ねる特徴的な管状構造が成長する。反応温度、原料ガス流量、触媒粒径を精密に制御することで、外径・長さ・配向といった微細構造のチューニングが可能となり、複合材料や電子デバイスに求められる高導電・高強度といった要求性能を自在に設計できる。

他手法と比べてCVD法が際立つのは、優れたスケーラビリティにある。いわゆる「ビーカー規模」で留まらず、フロー型連続炉を用いることでトン単位の工業生産に拡張できる。この量産性の向上がコスト低減をもたらし、電子部材の帯電防止樹脂、航空宇宙向け軽量複材など、MWCNTの応用シーンを急速に広げている。

現在も触媒担体の選定、ガス組成の最適化、加熱プロファイルのマイクロコントロールなど、精緻な改良が進められている。高純度化と構造制御を両立させることで、MWCNTが秘めるポテンシャルはまだまだ底知れない。CVDプロセスの深化は、ナノテクノロジーを牽引する必須技術であり、次世代素材社会を切り拓く原動力となるだろう。