CAS 67-48-1に分類されるコリンクロリドは、単なる飼料添加物ではありません。細胞の構造維持から重要な代謝経路まで、家畜の健康と生産性を支える真の「栄養科学」の結晶です。現代の畜産が直面する高効率化と動物福祉の両立へ向け、その科学的根拠を解き明かすことが鍵となります。

分子式C5H14ClNOを持つ第四級アンモニウム塩であるコリンクロリドは、必須栄養素「コリン」の供給源として、生体内の複数のビochemical反応に関与します。特筆すべきは、リン脂質合成への深い関わりです。構成成分としてのホスファチジルコリンおよびスフィンゴミエリンは、あらゆる細胞膜に不可欠で、細胞の構造、流動性、透過性を決定づけます。コリン供給が不足すれば、膜脂質の合成が阻害され、組織全体の機能と健全性が損なわれます。

さらにコリンは神経伝達物質アセチルコリンの前駆体でもあります。中枢および末梢神経系で働くアセチルコリンは、筋収縮から記憶形成まで広範な生理機能に関わり、幼齢期の成長段階では神経回路の発達に特に重要です。これにより、行動応答性や神経系の総合的健康が向上するのです。

脂質代謝における肝保護効果も実証されています。コリンはVLDL(超低比重リポ蛋白)粒子合成を促進し、肝臓で産生された中性脂肪を他組織へ運搬する役割を担います。このメカニズムが肝細胞への脂肪沈着を防ぎ、 fatty liver(脂肪肝)を回避します。泌乳初期の乳牛や急速成長期のブロイラーで、コリン補給により肝性脂症の発生頻度と重症度を有意に低下させるデータも多数報告されています。

これらの基礎機能に加え、コリンクロリドは飼料効率向上・成長促進・繁殖成績改善など、多角的なメリットをもたらします。鶏では脚弱症(ペローシス)の抑制、および卵質・卵数の向上に寄与します。しかし動物体内のコリン自己合成能力は限られ、ストレスや急速成長等の条件下では必須量に届かないことがほとんどです。科学的には、各種動物および生産ステージに応じた適正給与量の設計が、欠乏症と過剰症の両方を回避し最大効果を引き出す唯一の道とされています。