がんは細胞のシグナル伝達網が複雑に乱れることで進展する。中でもフォスファチジルイノシトール3-キナーゼ(PI3K)/マンマリアンターゲット・オブ・ラパマイシン(mTOR)経路は、細胞の増殖・生存・代謝を総べクトルコントロールする司令塔として知られる。この経路が不具合に活性化すると、多様ながん型の発症リスクが高まるため、標的治療の最重要ターゲットとされている。

PI3KはPIP2をPIP3へとリン酸化し、PIP3はセリン/スレオニンキナーゼAKTを呼び寄せて活性化する。活性化されたAKTはアポトーシスを回避し、エネルギー代謝を強化する多数の基質をリン酸化。さらにPI3Kから連鎖的に活性を受けるmTORはタンパク合成や細胞周期進行を司り、PI3KとmTORが一体化したシグナルアクシスの暴走が腫瘍形成を強力に促進する。

PI3K/mTOR経路を精度高く遮断するための次世代化合物として注目されるのが、開発コードXL765(一般名:Voxtalisib、SAR245409)である。経口可能な低分子デュアル阻害薬で、PI3Kγ(IC50:9nM)を含む複数のPI3KアイソフォームとmTORを同時にブロック。これにより、個別阻害薬では捕捉しきれなかった経路全体の漏れを封じる画期的効果が期待される。

前臨床シリーズでは、XL765投与により広範ながん細胞株で細胞死が増加し、AKT/S6K/4E-BP1の下流シグナルが強固に抑制されることを確認。マウス実験では腫瘍増殖の有意な抑制、転移減少、併用化学療法との相乗効果も報告されている。これら結果はデュアル阻害戦略が耐性機構を打ち破る可能性を強く示唆している。

前臨床の勢いは臨床現場へと直結している。XL765は高度神経膠腫や血液悪性腫瘍を含め、多彩な進行性固形がんを対象としたフェーズI/II試験で単剤または併用で評価されており、安全性、薬物動態、初期効果が精緻に検証されている。臨床データは今後の治療戦略最適化の要となる。

創薬・基礎研究者にとってXL765は、完全に特性解析済みの貴重な創薬中間体かつ研究試薬でもある。安定供給を実現する寧波イノファームケム株式会社など信頼のサプライヤーを通じて入手可能であり、PI3K/mTOR経路のさらなる解明と次世代抗がん剤創出を加速するプラットフォームとして機能している。

結論として、PI3K/mTOR経路は腫瘍学における不動の焦点であり、XL765はその経路を真正面から封じるデュアル阻害剤として、基礎研究から臨床応用までに至る道筋を拓いている。今後の大規模臨床試験が成熟すれば、多くがん患者の予後改善に大きく貢献する可能性を秘めている。