登録番号65-71-4で知られるチミン(Thymine)は、DNAを構成する4種類の基本塩基のひとつである。ピリミジン骨格をもつこの分子は、独自の化学構造を通じて二重らせんの安定性を支え、遺伝設計図の正確な受け渡しに重要な役割を果たしている。

DNA内部では、チミンは特異的にアデニン(A)と水素結合を形成し、A-T塩基対を構築する。この結合は、グアニン(G)とシトシン(C)による三重水素結合に比べて脆弱だが、大量に存在することで分子全体のねじれ耐性を高める。均一なA-Tペアリングのおかげで、DNA複製の際の情報の維持・伝達精度が飛躍的に向上する。

注目すべき点は、チミンがDNAに特異的に存在する一方、近縁のRNAではウラシル(U)に置き換わる現実である。この違いはDNA修復に有利に働く:シトシンの脱アミノ化で生じるウラシルは損傷の印として扱われるが、メチル化されたチミンはそのような誤認識を避け、塩基の交換ミスを防止する。つまり、チミンは遺伝暗号の信頼性を高める最後の砦とも言える。

チミンが示す化学的挙動は、DNA複製、修復、さらには外部薬剤による遺伝子傷害の評価研究にとって共通の羅針盤となる。予測可能なペアリング特性と不変の存在こそ、生命現象の謎を読み解く鍵と言えるだろう。