医薬分野では、確実な薬物体内動態を実現するため、剤形ごとの剤設計が日々進化している。その中で錠剤を速やかに崩壊させるよう設計された賦形剤＝スーパーディスインテグラント（超高分子崩壊剤）の存在感が増している。代表的なクロスカルメロースナトリウムは、その卓越した崩壊性能を支えるユニークな物性が高く評価されている。本稿では医薬賦形剤の膨潤特性を科学観点から解き明かす。

クロスカルメロースナトリウムの崩壊メカニズムは、「急速吸水・膨潤」と「毛細管現象による芯吸（ウイッキング）」の2段構造。架橋構造のため水溶性は低く、吸水能は極めて高い。大量の水分を取り込むことで劇的に容積が増大し、錠剤マトリックス内に大きな応力を発生させ瞬時に崩壊へ導く。さらに繊維状構造が毛細管作用を促進し、水の浸透速度を飛躍的に高める。この錠剤崩壊機構は製剤設計の要となる。

急速崩壊により得られる最大の利点は薬物溶出速度の向上だ。錠剤が微小粒子へと細分化されることで比表面積が増加し、体液への溶出が促進される。これにより活性成分の生体利用能（バイオアベイラビリティ）が向上し、治療効果が確実になる。高い溶出増進効果を示すクロスカルメロースナトリウムの直接圧縮への適応性は、処方設計者から高く評価されている理由である。

経口固形制剤の開発では、難溶性APIや疎水性賦形剤を用いた処方においても崩壊性を維持することが課題となる。クロスカルメロースナトリウムは、優れた膨潤・芯吸能によりこうした制限を打ち破る。さらにウェットグラニュレーションはもちろん、乾式混合プロセスでの使用も可能であり、製法選択の自由度を高める。

したがって、クロスカルメロースナトリウムを採用することは、薬効の確実な発現と患者アドヒアランス向上を目指す製薬企業にとって戦略的判断となる。現在も進化を続ける医薬錠剤崩壊技術の中で、クロスカルメロースナトリウムは先進賦形剤として不動の地位を築いている。