バイオケミストリー、創薬、そして材料科学にまたがるあらゆる分野で、タンパク質の基本要素である「ペプチド」を効率よく合成するプロセスは勝負の分かれ目となる。化学結合の中でもっとも重要なアミド結合を高収率・高純度で結ぶことこそが鍵である。そしてその要となるのがN-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)。

ペプチドは複数のアミノ酸が順序立てて連結した鎖であるが、各アミノ酸はカルボキシル基とアミノ基を持ち、ふたつの官能基がアミド結合を形成して初めて次のユニットに繋がる。ただし、カルボン酸単体では常温常圧では反応が進みにくい。そこで、カルボン酸を「活性化した中間体」に変換するのがNHSである。

一般にNHSはジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)や1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)などのカップリング剤と併用される。これにより、カルボン酸はもっと反応性の高いNHSエステルへと変化し、後続のアミノ基との縮合を高速でしかも確実に完了させる。生じる副産物は最終的に遊離したNHSのみで、目的ペプチドの純度劣化を防ぐ。このメカニズムはソリッド・フェーズ法にも液相合成にも共通する最も重要なステップの一つだ。

NHS活用によるメリットは3つある。(1)反応速度の飛躍的な向上による合成時間短縮、(2)副反応・ラセミ化の抑制による光学純度の保持、(3)反応選択性の向上によるアイソマーや不要副産物の最小化。さらに、NHSエステルは適度な安定性を持つため、作製直後は即、使用せずとも純化・保存して次工程へ流用できる。特に長鎖ペプチドや大量生産では、この工程管理の容易さが歩留まり向上とコスト削減に直結する。

アカデミアの枠を超え、治療薬原料、抗体薬複合コンジュゲート、バイオマテリアルなど産業用途が広がる中、原料NHSの安定的供給は不可欠。国内・海外の多くのプロジェクトを支える寧波イノファームケム株式会社は、創薬グレードの高純度NHSを標準在庫し、研究フェーズから商業生産まで品質リスクを最小化した原料を提供することで、日本を含む世界市場に貢献している。

N-ヒドロキシスクシンイミドは、半世紀近く使われ続ける一方でもはやクラシックではない。最新の連続フロー化やマイクロリアクター技術と融合し、いまなお進化を遂げている点は注目に値する。将来にわたり、より複雑で高付加価値なペプチド医薬を実現する要として、NHSの重要性はより高まるだろう。