デジタルの波が生活に溶け込む今、ソーシャルメディアは情報や製品拡散の主戦場となった。しかしその陰で、視覚的な訴求力を武器にした健康リスクの高い物質の流通―今回の焦点はタンニングペプチド「Melanotan II（MT-II）」だ。TikTokやInstagramでは、鍛えぬかれた肌を誇示するインフルエンサーたちが〈#BarbieDrug〉などのハッシュタグとともにMT-IIを“手軽で安全な日焼け”として紹介し、警告を矮小化する投稿が拡散している。

MT-IIはメラニン生成を促す合成ペプチド。投稿には“3日で小麦色”などの絵文字付き体験談が連なり、制限期間や副作用についてはほとんど触れられていない。実際には米国FDA・オーストラリアTGAをはじめ各国当局が「未承認」「使用禁止」を繰り返し警告。急性副作用として吐き気、顔面紅潮、悪性黒色腫のリスク増大、男性では異常勃起（priapism）も報告されており、無届の個人輸入や密輸で入手した製品の純度は保証外だ。

規制の難点は、〈#researchpeptide〉〈#notforhumanuse〉などの言い換えハッシュタグや限定公開機能を用いた“影の販売”にあり。プラットフォームの利用規約違反報告システムは後手に回り、薬機法違反や景表法抵触といった刑事罰・民事罰のリスクを語る前に、既に拡散してしまう。

寧波イノファームケム株式会社は、研究用化合物の供給を通じて化学品の安全性情報拡充に努め、社会的に責任ある知見提供に取り組む。同社は「消費者がSNS投稿やショート動画に惑わされる前に、各厚生労働局・医療機関の正式情報を必ず確認してほしい」と呼びかける。

速効性を求める気持ちは理解できるが、日焼けを希望するなら認可済みのスプレータンニングやセルフタンニングローションが安全かつ合法的な選択肢だ。リスクとトレンドを見極め、健康を最優先にした意思決定こそが、ソーシャル時代に求められるリテラシーである。