インド原産のシソ科植物コレウス・フォルスコリから単離されたジテルペノイド、フォルスコリンは、酵素アデニル酸シクラーゼを直接活性化して細胞内cAMP濃度を上昇させる点で注目されてきた。

天然物由来の有用化合物だが、近年の有機合成化学の発展により、完全人工合成による安定供給体制も整った。複雑な多段階反応を駆使した全合成は、分子構造の精密な確認とともに、厳格な品質管理のもと研究用リソースとしての利用を可能にした。

フォルスコリンの骨格を起点に、側鎖を改変した多数の誘導体が創製されている。たとえば、colforsin daropate(コルフォルシン・ダロペート)やFSK88といった化合物は、水溶性和薬効の選択性を改善することで、喘息発作・心不全などの治療標的に的確にアプローチしようとする臨床開発が進んでいる。

これらの誘導体の創出は、水溶性・効力・経口バイオアベイラビリティといった薬物動態学的性質をコントロールできるため、創薬プロセスの最適化を加速させるキーテクノロジーとなっている。フォルスコリンをひな形とした構造改変戦略は、天然物化学と合成化学の融合が如何にして医療の未踏領域に突破口を開くかを象徴する事例であると言える。