抗菌薬耐性(AMR)が世界的な脅威となるなか、いま最も注視されているのがコリスチン硫酸塩である。多剤耐性グラム陰性菌による重症感染症の“最後の砦”として、再評価が進んでいる。

革新的なメカニズム 効果の骨子は細菌の外膜にあり。コリスチン硫酸塩はリポ多糖(LPS)へ選択的に結合し、細胞膜構造を電気的に破綻させる。膜が穿孔すると細胞内成分が漏出し、効率的な細菌死が誘発される。この膜破壊作用のため、β-ラクタマーゼ産生株など既存薬に耐性化した菌にも高い抗菌力を発揮する。

主な治療領域 市中でも院内でも深刻化する耐性グラム陰性菌感染症――肺炎、尿路感染症、敗血症など――に選択肢は限られている。コリスチン硫酸塩は特にICUで使用頻度が高く、P. aeruginosa や Acinetobacter baumannii のカーバペネム耐性株に対して効果を示す。

安全プロファイル 投与にあたって最も警戒すべきは腎毒性(ネフロトキシシティ)と神経毒性である。クレアチニン clearance の逐次モニタリング、神経症状の注視が必須だ。腎障害既往患者では用量調整や薬物血中濃度モニタリング(TDM)も推奨される。

最適化と未来展望 AMR 拡大を抑えるには、投与量・投与間隔の最適化、併用療法の検証、感染制御との連携が欠かせない。コリスチン硫酸塩を正しく使い、次世代へ効力を残すことが臨床現場の責務である。