世界保健機構(WHO)の必須医薬品リストにも名を連ねるイベルメクチンは、土壌中の微生物から発見された天然物誘導体として、ノーベル賞に輝いた革新的駆虫薬です。寄生虫(節足動物や線虫)の神経・筋肉にのみ存在するグルタミン酸依存性塩化物チャネルを選択的に標的にし、効率よく駆除すると同時に、哺乳類では血脳関門のバリアにより中枢に作用しにくいことから、高い安全性も併せ持っています。

作用メカニズムを詳しく見ると、イベルメクチンは寄生虫の細胞膜上にあるグルタミン酸感受性塩化物チャネルに特異的に結合し、チャネルを継続的に開口状態へと変化させます。結果として細胞内の塩化物イオンが過剰に流入し、膜電位は過分極(休止状態)へと固定されます。神経伝達が遮断された寄生虫は麻痺し、最終的に死滅へ至るのです。哺乳類の中枢神経系は主にグリシン感受性チャネルが支配的で、かつイベルメクチンが血脳関門を通過しにくいため、寄生虫への“精密攻撃”が実現します。

この分子レベルでの選択毒性が、人や家畜に対する副作用を最小限に抑える鍵です。そのため製薬メーカーはCAS番号70288-86-7を指定した高純度原末の調達に際し、品質管理とトレーサビリティを重視しています。

イベルメクチンの有用性は人医・獣医の両領域で広がり、河川盲(オンコセルカ症)、糞線虫症などに加え、家畜の肉用牛や豚、犬猫などの外部・内部寄生虫症に長年用いられてきました。一部の動物医療では耐性化が報告されていますが、人における耐性の出現は極めて限定的であり、これもユニークな作用メカニズムゆえの特徴といえるでしょう。

開発初期から現在に至るまで、イベルメクチンは医療現場と畜産現場の両方で基幹駆虫薬として活用され続けています。その背景には、寄生虫に対する幅広いスペクトラムと、宿主安全性を両立させた確かな科学的根拠が存在します。