脳卒中とも呼ばれる脳虚血は、血流が一時的に遮断されることで広範囲な神経細胞の障害をまねく重篤な疾患です。その後に行われる血流量回復（再灌流）は、むしろ二次障害を助長する「逆説的な副作用」を引き起こすこともあります。そんな臨床の課題に対し、和漢薬のモクレン科マグノリア属植物に含まれる天然化合物ホノキオールが強力な細胞保護効果を示すことが、近年の研究で明らかになってきました。今後の脳卒中治療に向けた新戦略として注目を集めています。

抗炎症作用に着目すると、虚血・再灌流時に侵攻する好中球の脳内浸潤をホノキオールが抑制し、サイトカインなどの炎症性介在物質産生を減らすことが報告されています。これにより、局所の炎症暴走を鎮静化し、壊死が広がるのを防ぎます。

さらに、血流再開と同時に増加する活性酸素種（ROS）による酸化ストレスに対しても、ホノキオールは高い自由基消去活性を発揮します。脳細胞膜の脂質過酸化を防ぎ、ミトコンドリア機能を維持することで、細胞エネルギー代謝の崩壊を回避する役割を果たしています。

脳卒中が進行する過程で問題となる興奮毒性――過剰なグルタミン酸刺激が引き起こすカルシウム過剰流入に対しても、ホノキオールはイオンチャネルやシグナル伝達を正調整。特にPSD95–nNOS複合体の相互作用を阻害し、NMDA受容体過剰作動によるニューロン死を防ぐことが示されています。

実際に動物実験では、ホノキオール投与により梗塞体積の縮小と神経学的スコアの改善が確認されており、機能予後の向上が期待されます。これは上記した抗炎症・抗酸化・興奮毒性抑制という複数のメカニズムが相乗的に働く結果と考えられます。

今後の医療応用に向けて、ホノキオールの作用メカニズムをさらに解明し、臨床現場で安全性と有効性を実証する研究が急務です。将来的には現行の血栓溶解療法や血管内治療と並ぶ、新たな「細胞保護戦略」としての実用化が期待されています。