シプロフロキサシン・ラクチネートは、フルオロキノロン系抗生物質の主力剤として幅広い細菌に対して高い抗菌力を発揮する。分子設計により標的酵素に特異的に作用し、耐性菌にも効果を示す点で、治療戦略の要となっている。本稿では、その適応と副作用を整理し、医療現場での適正使用に必要なポイントを網羅する。

泌尿器科領域では、複雑性尿路感染症や前立腺炎の第1選択薬に。呼吸器では、慢性閉塞性肺疾患(COPD)の増悪や細菌性肺炎、皮膚・軟部組織感染症、骨・関節感染症にも広く用いられる。また、伝染病対策の側面では炭疽やペストの治療・予防にも登録されている。こうした多岐にわたる適応と使用上の注意は、症例ごとにリスクベネフィットを個別評価する重要性を示唆する。

投与方法と服薬指導は治療成功の要。医師の指示に従い、細菌の完全滅菌を期すため初期用量から最終日まで欠かさずに継続すること。食後・空腹時どちらでも服用可能だが、同時に牛乳やカルシウム強化飲料を摂ると吸収率が低下するため間隔を空けるよう指導が必要。点滴静注では希釈液の組成や速度管理も検討項目となる。

薬剤相互作用と禁忌も把握しておくべきポイントだ。制酸薬、鉄剤、カルシウム含有サプリメント、一部の非経口栄養剤は吸収を阻害し血中濃度を低下させる。併用薬の一覧を確実に把握し、服用タイミングを調整する。アレルギー歴、腱障害既往、QT延長症候群などは禁忌または使用制限となるため、事前の問診が欠かせない。

副作用リスクは消化器症状(悪心、下痢)、軽度のめまいが頻度が高く、治療継続が可能な場合も少なくない。一方で腱炎・腱断裂、末梢神経障害、精神症状など重篤な有害事象のエビデンスも蓄積している。投与前に既往・併用薬を精査し、投与中は症状出現の早期発見と速やかな対応手順を患者と共有することで、強力な抗菌薬を安全かつ最大限活用できる。