健康寿命の延伸に寄与する機能性成分を探るうえで、自然由来物質の可能性は計り知れない。プロポリスに豊富に含まれるカフェ酸フェネチルエステル（CAPE）は、優れた抗酸化作用と細胞レベルでの保護効果で近年特に注目を集めている。本稿ではそのメカニズムと健康応用の展望を整理する。

体内の抗酸化システムが増大する活性酸素種（ROS）に追いつけなくなる「酸化ストレス」は、細胞障害・老化・慢性疾患の主因として知られる。CAPEはこのプロセスに対し、①生成されたROSを直接捕捉・無害化する、というアプローチを取る。こうしたラジカル・スカベンジング作用により、DNAやタンパク質、脂質への酸化ダメージを未然に防ぎ、細胞の構造と機能を維持する。

CAPEのもうひとつの特徴は、内因性抗酸化酵素の発現を促進する点にある。特に報告例が多いのは、酸化ストレスに対する細胞防護の要であるヘムオキシゲナーゼ-1（HO-1）と、ROSの第一段階を中和するスーパーオキサイド・ジスムターゼ（SOD）の上昇だ。酵素誘導による持久力強化が、CAPEの細胞保護・回復力に寄与する。

この酸化ストレス軽減効果は、炎症性疾患、神経変性疾患、ある種のがん予防へと展開する。酸化ダメージが蓄積しやすい脳や眼の細胞に対する保護作用についても、臨床応用を見据えた研究が進行中だ。

CAPEの抗酸化作用は、抗炎症効果と連動している。酸化ストレスがNF-κBなどの炎症シグナルを活性化させるなか、CAPEはROSを減らすことで炎症経路の暴走を鎮め、一石二鳥のシナジー効果をもたらす。酸化と炎症の悪循環に同時に介入できる点は大きな利回りといえる。

細胞レベルの保護は創傷治癒や組織修復支援にもつながる。炎症と酸化ダメージを抑えることで、細胞再生を促す良好な創傷環境を整えるCAPEは、スキンケアや創傷被覆材への配合が期待されている。

まとめとして、天然プロポリス由来のCAPEは、強力な抗酸化力とHO-1・SODなど自己防御酵素の誘導という二段階防御で細胞を守る。自然が蓄積した知恵を借り「酸化ストレスと戦う」というシンプルなコンセプトを実現するCAPEは、医療・健康分野で幅広く応用される可能性を秘めている。