微結晶セルロース（MCC）は、精製木材パルプ由来の天然高分子で、医薬品・食品・化粧品など幅広い産業で高い存在感を放つ。高い成形性と化学的惰性をもち、固形製剤のバインダー、製品容積を増やすビルキング剤、食感やテクスチャーを整える改良剤としてひとつで役割を果たす。本稿では、その多彩な用途と物性背景を詳しく見ていく。

医薬分野ではMCCは圧縮成形の切り札だ。直接圧縮法に適しており、圧力を加えると塑性変形し、タブレット内部に強固な結合ネットワークを形成。これにより、強度と崩壊性のバランスに優れた錠剤を短時間で製造できる。多孔質構造が水分を素早く吸収し膨潤するため、崩壊剤としての役割も果たし、薬物の溶出性と MCCによるバイオアベイラビリティ向上 を後押しする。また、活性成分と反応しない化学的安定性により、薬効の維持と保存期間の延伸に貢献する。

日本薬局方・米国薬局方・欧州薬局方など各国の医薬品添加物基格に適合するグレードが豊富で、医薬品グレードMCC（例PH101） の用途はバインダーにとどまらない。粉体流動性も高く、連続化生産ラインでの重量ばらつきを抑え、歩留まり向上とコスト削減を実現する。すでに処方開発の初期段階から、これ一つで結合・崩壊・流動を同時に改善する万能プレイヤーとして設計者の支持を得ている。

食品分野では、粉体製品のかたより防止、低カロリーなボリューミング効果、ゼリーやスプレッドの食感調整で活躍。栄養補助食品では錠剤化しやすいのにカロリー負担が軽いため、ヘルス志向の高まりと相まって需要が急増。化粧品においては、スクラブ粒子としての適度な研磨性や、余分な皮脂を吸着する油吸収性、粘度増加による使用感の向上が評価され、洗顔料・フェイスパウダー・シャンプーなどあらゆる処方に取り込まれている。

MCCは原材料コストも安価で、GRAS（米国：一般用安全食品添加物）の認可や各国の食品・医薬・化粧品規制でも安全性が担保済み。今後も新たな粒度・表面処理技術の開発が進めば、NDDS（新規ドラッグデリバリーシステム）や植物由来代替素材など、さらに先端分野への展開が期待される。シンプルな構造にもかかわらず、産業イノベーションの根幹を支える“小さな巨人”として、その存在感は今後も増す一方だ。