デジタル化の進む現代社会において、ストレスは誰もが抱える“隣人”となっています。短期的には適応反応として必要でも、慢性的になると健康を蝕みます。こうしたストレスは脳内で活動神経系が過剰に高まることで生じることが多く、そのブレーキとして重要な役割を果たすのが「γ-アミノ酪酸（GABA）」です。

GABAは大脳の主要抑制性神経伝達物質であり、過剰な興奮を自然に和らげる天然の“ニューロンブレーキ”と言えるでしょう。ストレスを感知すると「戦闘・逃走反応」が作動し、発火し続ける興奮シグナルが増幅されます。GABAはGABAA受容体に結合して細胞内に塩化物イオンを取り込み、神経細胞膜を過分極させることで、アクションポテンシャルの発火を抑制。これが不安や張りつめた感覚を静め、心身の落ち着きを呼び戻すメカニズムです。

研究では、GABAレベルが低い人ほどストレスや不安障害にかかりやすいことが一貫して報告されています。GABA量が足りない状態では興奮を抑えるシステムが働きにくく、長引くストレス反応を招きやすくなります。結果として「どうしても気が休まらない」「些細なことでイラつく」といった症状が出現しやすくなります。

注目すべきは、腸内細菌叢もGABAを産生し得る点です。この腸由来GABAは「腸－脳軸」を介して脳に影響を与えることが判明。GABA合成を得意とする乳酸菌プロバイオティクスを摂取したり、GABAを含む発酵食品を日常に取り入れることで、GABAシグナルを強化し、より良いストレス耐性が期待できます。腸と心の新たな接点が、メンタルヘルスの扉を開きます。

身近なストレス対策として、

  • 発芽玄米、赤ワイン、ほうじ茶、キムチなどのGABAリッチな食品を食事にプラス
  • 瞑想やヨガ、深い呼吸による自律神経調整
  • 質の良い睡眠でGABA回路の修復

といった実践が効果的です。サプリメントでのGABA摂取も選択肢の一つですが、その吸収効率には個人差があり、医師や薬剤師と相談することが大前提。体内の自然な仕組みを大切にしながらGABA作用を高めることで、日常に静けさと回復力を取り戻せるでしょう。