欧州糖尿病学会年次学術集会/欧州肥満学会合同大会(EASD/ECO 2024)現地報告――減量治療を巡る最新知見は、単に体重計の数字を減らす話に終わっていない。肥満が心血管疾患・2型糖尿病・非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)など重篤な合併症の大きなリスクファクターであることから、治療のゴールは「包括的な心臓代謝リスクの軽減」へと移り変わっている。

こうした文脈で注目されているのが、グルカゴン(GCG)受容体とGLP-1受容体の両方を同時に刺激するデュアルアゴニスト「マズデュタイド」だ。本薬はプラセボ対照無作為化第III相試験(GLORY-1)において最大で体重15%以上の減少を達成したことで知られるが、試験では多角的な心臓代謝指標の改善も確認されている。

脂質側面では、被験者の総コレステロール・LDL コレステロール(いわゆる悪玉コレステロール)・トリグリセリドが統計学的に有意に低下し、アテローム性心血管リスクの低減が示唆された。

血圧コントロールについても、収縮期・拡張期両血圧がクリニカルに認められる改善を示し、肥満に伴う高血圧という最大の心血管リスクに対して直接的な利益をもたらしている。

さらに肝臓への利益も著しい。試験では肝脂肪含有量が有意に減少し、ALT値も改善した。GCG受容体刺激による肝脂質代謝への効果がNAFLD進行抑制にも寄与していると考えられる。

こうした個別マーカーの改善に加えて、減量そのものから導かれるインスリン感受性増加や全身炎症の抑制という二次的利益が相乗効果をもたらす。デーブ・マルコープ大学の専門家も「肥満治療は、根底的なメタボリック機能不全を修復する統合的なアプローチへ移行している」とコメントしている。

開発元であるバイオ系創薬企業 Innovent Biologics は、中国・海外での規制申請を加速させている。マズデュタイドは単なる減量薬としてではなく、肥満とその合併症を真に包括的に制御する「新しい治療パラダイム」を牽引する可能性が高まっている。