フタル酸ジブチル（DBP、CAS No. 84-74-2）は、無色透明の油状液体で、優れた可塑化・溶解性能を持つ化合物です。水には不溶ながら、アルコール・エーテル・ベンゼンなどの有機溶媒には極めて溶けやすく、液系および半液状配合設計に溶け込みやすいため、塗料・印刷インキ・接着剤などに幅広く活用されています。

特にPVC（ポリ塩化ビニル）への添加により格段の柔軟性・回復性・成形加工性を付与できる点が最大の特長です。可塑化PVCフィルム・シート・ホース・プロファイルは建築資材や自動車部品として大量に使用されており、コストパフォーマンスを犠牲にせず求める物性を実現できるため、DBPはPVC可塑剤の定番となっています。

塗料・塗装分野では、皮膜形成を助けるコアレス（共溶剤）として機能し、塗膜の密着性・耐久性・割れ抑制を向上させます。印刷インキでは粘度調整や顔料分散を担い、鮮やかでムラのないプリント品質を実現します。また、接着剤・シーラントにおいても初期タック性や柔軟性を高め、長期にわたる強固な接合を可能にします。

優れた性能を誇る一方、環境・健康面での評価も進んでおり、欧米や日本を含む各国規制では、乳幼児用製品や一部化粧品への使用が制限されています。事業者はSDS（安全データシート）を参照し、適用法規を遵守した安全な取扱いが求められます。工業用途では純度99.5 %以上が品質規格として定められ、品質の均一性を担保しています。

まとめると、フタル酸ジブチル（DBP）はPVC可塑剤としてはもちろん、塗料・インキ・接着剤の機能向上に欠かせない基幹化学物質です。優れた溶解性とコストパフォーマンスを活かすには、安全規制を遵守しながら用途別の特性を正確に理解することが不可欠です。