【動物医療最前線】 チロシン酒石酸塩はもともと家畜向けの抗生剤として知られていたが、ここ数年、主に犬猫を中心としたコンパニオンアニメル分野でも注目を集めている。その理由は、単なる抗菌作用に加え、消化管黏膜の炎症を抑える抗炎症効果を併せ持つ点にある。

具体的には、慢性の軟便や血便を伴う結腸炎、炎症性腸疾患(IBD)の緩和に活用されることが多い。薬剤が腸内の過剰な細菌増殖を抑制すると同時に、腸管上皮の炎症に直接働きかけるため、排泄状態が改善され、腹部の不快感も軽減。ペットのQOL向上に直結する治療選択肢として、獣医現場ではすでに実績が高い。

用途はそれだけにとどまらない。一部の犬種で目立つ涙やけ(エピホラ)に対するオフレーベル使用も根強い。涙の色素沈着が細菌バランスや軽度の炎症に左右されていると考えられ、短期間の内服により着色が薄まることが報告されている。まだメカニズムは完全解明されていないものの、幅広い使用実績が支持する効果とみなされている。

いずれにせよ、コンパニオンアニメルへのチロシン酒石酸塩投与は「適応外使用」に当たる。獣医師が個別の症例で安全性・有効性を判断したうえで、適正な用量・投与方法を指示する。市販製品は苦味が強いため、併設の調剤薬局でフレーバー入りに加工してもらうなどして摂取しやすくするケースも多い。

ペットの体調に不安を感じたら、まずはかかりつけの獣医師へ相談。チロシン酒石酸塩が適応となるか、他の治療オプションはあるかを総合的に検討することが重要だ。