産業界で過酸化水素（H₂O₂）を工業量産する常套手段といえば、アントラキノン法が圧倒的に主流だ。その鍵となるのは2-エチルアントラキノン（2-EAQ）という化合物であり、選択性・経年安定性に優れる点で最も一般的に用いられる。本稿では、2-EAQが生産効率と持続可能性をどう高めるかを詳しく見る。

工程は次の通り。適切な溶媒に溶解させた2-EAQに、パラジウム系触媒で接触水素化を施す。これにより2-エチルアントラヒドロキノンが生成され、副反応を最小限に押さえながら選択的に進行する。次に空気吹込み酸化を行うことで、もとの2-EAQへ再生され、同時にH₂O₂が生成。得られたH₂O₂は抽出回収し、残った2-EAQ溶液を再循環させる仕組みである。

本サイクルの効率は、2-EAQが水素化段階で高い選択比を示し、かつ多くのサイクルに耐える耐劣化性を備える点に依存する。そのため、高品位2-EAQを安定的に供給できるメーカーの選定がプロセス設計の第一歩となる。また、触媒・溶媒を入念にチューニングすることで、テトラヒドロ系副生物の形成を抑制し、H₂O₂収率を最大限まで高めることが可能だ。

質を極めた2-EAQを導入すれば、過酸化水素の収率・純度が飛躍し、運用コストと環境負荷を同時に低減できる。その還元と酸化を繰り返す精妙な化学反応サイクルの要が、2-EAQという中間体であることを理解できれば、アントラキノン法がグローバルなH₂O₂供給をどれほど支えているかが分かるはずだ。