製紙プロセスは極めて精密で、化学助剤なくして高品質紙の大量生産は考えられません。その中でも、水溶性高分子であるポリアクリルアミド(PAM)は、繊維・充填剤の保持、脱水性の向上、紙力の強化まで、あらゆる段階で革新的な機能を発揮し、品質向上と運転コストの削減に直結しています。

PAMの最大の武器は「保持助剤(Retention Aid)」としての働きです。スラリー中に浮遊する微細な木材繊維やカルシウムカーボネート、クレーなどの充填剤は工程上どうしても白水中へ流失しがち。そこでカチオン性またはアニオン性PAMを添加すると、微粒子同士が架橋して大きなフロックとなり、フォーミングワイヤ上に効率的に捉えられます。結果、原収率が向上し、紙の均一性と品位が飛躍的に改善。外れ規格品の再処理や廃棄も減少します。

次にPAMは脱水助剤(Drainage Aid)としても活躍します。ウェットエンドで水分を迅速に除去できるかが生産速度を左右します。PAMは繊維・充填剤を凝集させスラリー構造を“疎”に整えるため、排水性が向上し、製紙機の速度アップと乾燥部の省エネルギーを実現します。スループット増大とCO₂削減の両方を可能にする効率的脱水は、現代の製紙工場に不可欠です。

PAMはさらに製紙の強度特性を飛躍的に高めることも可能です。乾強剤として機能し、繊維間の水素結合を補強することで、引張強度、破裂強度、耐折強度がアップ。よって、高強度紙の生産に加え、古紙や充填剤を多く配合しても要求性能を満たし、原コストの抑制とサステナビリティ向上に貢献できます。

使用するPAMの種類(アニオン、カチオン、ノンイオン)は、原料パルプの種類、充填剤含有率、プロセス水のイオン性、求める紙特性によって選択されます。例えば、カチオン性PAMはパルプやフィラーに帯びる負電荷を中和して凝集・保持効果を高め、アニオン性PAMはカチオン性添加物との複合系で精密な性能チューニングが可能です。

以上のように、PAMは製紙工程における「万能選手」とも言える化学助剤であり、保持・脱水・強度という3つの視点で品質向上、生産効率増大、運転コスト削減を同時に実現します。この高分子ポリマーの特性を最大限に活用できれば、環境課題と収益性の両立に向けた“次世代製紙”が見えてきます。