東京 – 生命現象を支える核となるアデノシンは、ヌクレオシドという単なる構成要素を越えた存在感を持つ。ATP/ADP/AMPに組み込まれることで細胞エネルギー転換の中心に位置し、生理活性としては現代医療の切り札にもなっている。

臨床現場では頻拍性上室頻脈(SVT)などの不整脈緊急治療に不可欠な薬剤だ。A1受容体を介したAV節への標準的な作用により、瞬時に頻脈を正常化できる。細胞のイオンチャネルや二次メッセンジャーシステムに及ぼす微妙な影響を把握することで、そのメカニズムが明らかになりつつある。

アデノシン受容体薬理の分野では新たな視点も開花している。神経伝達や免疫調節、さらには代謝制御に関わる多彩な機能を精査中であり、今後は神経疾患・炎症性疾患といった革新的適応にも波及する可能性が高まっている。受容体サブタイプ選択的なアゴニスト/アンタゴニストの開発が研究の最前線だ。

臨床利用を安全に進めるには、半減期が極めて短く相互作用リスク・副作用プロファイルを正確に理解しておく必須がある。迅速な体内消失により安全性は高いが、併用薬との相互作用に注意を払った投与が求められる。基礎科学と臨床の両輪で深化するアデノシン研究は、今後も医学革新の中心に留まるだろう。