医薬品開発において、限られた工数とコストで高品質な錠剤を製造することは永遠のテーマだ。その中で注目を集めているのが「直接圧縮(Direct Compression;DC)」という手法である。造粒のステップを省き、原薬と賦形剤を混合してそのまま圧錠できるため、生産効率が格段に向上する。この際に最も重要になるのが賦形剤の選択であり、ここで圧倒的支持を得ているのが微結晶セルロース(Microcrystalline Cellulose;MCC)である。

MCCは圧力を受けて塑性変形し、錠剤内部に緻密な結合ネットワークを瞬時に形成する。そのため低い圧縮力でも高い硬度を確保し、チッピングやクラックのリスクを抑えることができる。さらに、流動性、圧縮成形性のバランスに優れており、高速圧錠機でもトラブルなく連続生産が可能だ。そうした背景から、海外だけでなく日本でも微結晶セルロース粉末の需要が急増している。

ただしMCCの価値は「バインダー」としての側面にとどまらない。低用量製剤ではフィラーとして容量を確保し、同時に希釈剤として均一な錠剤重量を実現。さらに錠剤摂取後の迅速な崩壊を促す崩壊剤としても機能し、活性成分の速やかな放出とバイオアベイラビリティ向上に貢献する。このように1原料が複数の役割を兼ね備えるため、処方数の簡素化とコスト削減にも直結する。

粒径や密度が異なる多様なグレードが市販されているのもMCCの強みだ。例えば、高速圧錠では流動性に優れた粗粒タイプを選べば重量変動を最小化でき、高強度錠剤を目指すなら微粉タイプの使用が推奨される。各社は用途に応じてサプライヤーと相談しながら最適グレードを選定しており、「MCC選び」自体が処方開発の要となっている。

また、従来の湿式製粒法においてもMCCは高い存在感を示す。水分を均一に吸収し、造粒時のブリッジング現象を抑制して粒度分布の揃ったグラニュールを形成。この特性により、乾燥後も粒度変化が少なく、最終的な錠剤均一性が大幅に向上する。

このように、MCCはバインダー+崩壊剤という二面性を活かし、製法を問わず様々な錠剤設計に柔軟に対応。安定した品質と共通化できるプロセス設計を可能にすることで、治験段階から市販ロットまでスムーズなスケールアップを実現している。

まとめると、微結晶セルロースは直接圧縮製錬の要となる多機能賦形剤であり、製造効率向上、処方簡素化、そして製品の信頼性確保という三つの課題を同時に解決する。今後も剤形の高度化と患者のニーズに応える革新的な製品開発において、MCCは欠かせない存在となるだろう。