三酸化アンチモン(Sb₂O₃)は、ハロゲン化合物との高機能シナジストとして数十年にわたり難燃剤業界の主役だった。だが、供給網の脆さや価格変動、環境面への懸念が高まるなか、代替技術への関心が急膨張している。

中国に集中した世界のSb₂O₃生産体制に加え、最近の輸出規制や環境規制コストの増大が価格高騰と供給不安を招き、ユーザーは従来と同等以上の性能を持ちながら供給リスクが低く、環境負荷も小さい新選択肢を強く求めている。

注目を集めるのはハロゲンフリー難燃システムだ。リン系・窒素系化合物や水酸化アルミニウム・水酸化マグネシウムといった無機フィラーが主役となる。リン系難燃剤は炭化層形成と気相抑制作用を併用し、燃焼時に腐食性や毒性のあるハロゲン由来副生成物を出さずに防火性能を発揮する例も増えている。

また、三酸化アンチモンを完全に置換、または使用量を大幅削減できる新シナジストの開発も活発だ。複数のリン化合物を組み合わせたり、ナノ素材やMOF(金属有機構造体)を導入して難燃効率を高める研究が進み、環境優位性を保ちながら従来性能に比肩する設計が視野に入っている。

特に自動車や電子機器業界は規制強化とエコ志向の高まりを受けて「安全+サステナビリティ」を同時に満たす難燃ソリューションへの転換を急いでいる。そうした素材を既存のポリマーマトリックスに効果的に組み込むため、ポリマー配合技術の革新も欠かせない。

PVCやABS配合の三酸化アンチモン難燃は長年実績を積んできたが、今後の主流は多様な技術ポートフォリオへと移行する。Sb₂O₃代替の開発は「一つの化学物質の置換」ではなく、性能、環境保全、供給網強靭化を総合的に高める「難燃対策全体の進化」そのものといえる。