CAS 580-15-4として登録される6-アミノキノリンは、合成化学の要所で活躍する有機分子である。キノリン環の6位に位置するアミノ基がもたらす電子供与性により、特徴的な反応性と物理性状が顕在化し、医薬中間体から機能性材料まで幅広い用途開発が進められている。

分子式 C9H8N2、分子量 144.17の淡褐~褐色結晶粉末で、融点は 115–119 °C に収まり、常温常圧下では安定な固体として扱える。溶解性はメタノール、エタノール、クロロホルムなど有機溶媒に高く、一方で水への溶解度は低い。このため反応溶媒選択からカラム精製条件の設計まで、プロセス開発時の重要なファクターとなる。

反応ポイントは大きく二つある。まず、環外アミノ基の求核性が、スズキ偶合やビレット反応といった架橋伸長にもたらすアシル化・アルキル化を容易にする。次に、キノリン骨格の電子欠乏芳香環が示す求電子置換性とアミノ基による定位効果が、位相選択的な官能基導入を実現する。これらの相乗効果は、ジアミノピリミジン系抗癌化合物などへの効率的な構築を可能にした。

さらに、環内窒素の Lewis 塩基性を活用すると、銅や亜鉛など各種金属配座が形成され、発光性配位子やイオンセンサーのプラットフォームへと展開できる。キノリン骨格由来の拡張π系は蛍光特性を付与しており、プローブ開発や光化学応用研究でも注目を集めている。

総じて6-アミノキノリンは、「構造が示す官能基相反性」を最大限活用できる稀有な分子であり、創薬・材料・分析化学の境界領域における次世代合成戦略を牽引する基盤化合物である。