キトサンは、エビやカニの外骨格や真菌類の細胞壁に豊富に含まれるキチンから得られる注目の生体高分子だ。この「キチン→キトサン」への変化を左右するのが脱アセチル化工程である。強アルカリ溶液を用いてアセチル基を除去することで、アミノ基が遊離し、キトサンが持つ高付加価値機能を引き出す基盤となる。

工業的な製造では、甲殻類の殻を回収・洗浄した後、脱たん白と脱鉱(デミネラライゼーション)を経て高純度キチンを精製。次に脱アセチル化を施すことで粉末キトサンが生成される。脱アセチル化度や分子量は水溶性や粘度、最終的な機能性を大きく左右し、特に医薬品グレードでは高い脱アセチル化度と精製レベルが求められる。創薬、先進創傷治療などセンシティブな用途での採用が急増している。

キトサンの物性は多岐にわたる。生分解性、生体適合性に加え、抗菌・抗真菌活性を内在。中性付近でプラス帯電することで、陰性に帯電した表面に強く結合できるため、生体接着性や粘膜接着性に優れる。この帯電相互作用は、上皮を通じた経粘膜投与を可能にする創薬分野で高く評価されている。CAS番号9012-76-4はその国際的な識別子となる。

今後の応用領域は農薬代替の天然バイオ農薬・生育促進剤、重金属や微プラスチックを除去する次世代ウォータートリートメント、そして生分解性プラスチックや組織工学用高機能バイオマテリアルまで幅広い。生産科学と特性科学を深く理解することで、持続可能で革新的なソリューションとしてのポテンシャルを最大化できる鍵が握られる。