脳は常に大量のエネルギーを消費する器官だ。これまでブドウ糖が主要な燃料とされてきたが、ケトン体に着目した研究が精力的に進められている。中鎖脂肪酸(MCT)を肝臓でケトン体へと素早く変換し、脳細胞に直接送る。この代替ルートが高次脳機能の維持や認知症のセルフケアに繋がる可能性がある。

MCTの最大の特徴は、腸で分解・再構築の時間を省き、肝臓へ迅速に届いてケトン体へと変わる点だ。ケトン体は血脳関門を容易く通過し、ブドウ糖の利用が低下したアルツハイマー型認知症の脳でもエネルギーの補給源となり得る。このメカニズムが、加齢による「物忘れ」や軽度認知機能障害(MCI)の進行遅延につながると期待されている。

複数の臨床試験では、MCTオイルを継続摂取した群で短期記憶や作業記憶のテストスコアが上昇する傾向が確認された。ケトン体が提供する安定したエネルギー源により、神経伝達物質の合成がスムーズとなり、頭の回転や集中力が改善するという説もある。そのため、近年は「朝のルーティンにMCTパウダーをプラスする」という提案も広がり、アメリカや欧州のスーパーマーケットでは脳サプリメントコーナーに常設されるようになった。

また、難治てんかんに対するケトン食療法の一助として、従来の高脂肪・超低糖食よりもMCTを重点的に摂取する「MCTケトン食」も注目されている。ケトン体が神経興奮を穏やかにし、発作頻度を低下させるとの報告は、すでに小児神経学会ガイドラインにも反映されている。

実際の取り入れ方は簡単だ。粉末状のMCTは朝のコーヒーやスムージーにサッと溶け、オーツミルクやヨーグルトとも相性が良い。ベーキングにも使用でき、パンやパンケーキに活用すれば、食事で自然に補える。味がほぼ無色無臭なため、既存の食生活を大きく変えることなくクリアな頭脳を維持できる。

いまだ研究は途上だが、MCTが脳エネルギー代謝に与えるインパクトは計り知れない。ライフスタイルとして「ブドウ糖に加えてケトン体も上手に使う」ことが、健康寿命を延ばす鍵になるかもしれない。次の一手として、MCTパウダーを試してみてはいかがだろうか。