硫酸第一スズ(SnSO₄)は電気めっき分野で高品質な錫めっき層を得るための主力薬剤として知られる一方、他のニッチ産業でも知られざる活躍を見せている。注目すべき二つが「鋼線伸線」と「リキッドフィニッシュ」だ。それぞれの工程で硫酸第一スズの化学的特性が生産効率や製品品位を高めている。

鋼線伸線は、金型を通して線径を絞りつつ強度を上げる過酷な塑性加工プロセス。摩擦を抑え、工具摩耗や表面傷を防ぐために潤滑・被膜形成が欠かせない。この際、硫酸第一スズは潤滑剤や界面改質剤に配合され、ダイと鋼材の界面で摩擦係数を低下させ、更には伸線後の線表面を平滑に整える。結果、型の寿命が延び、仕上がり表面のランクも一段上がる。処方と添加タイミングの最適化がポイントとなる。

リキッドフィニッシュ(同義語として「液状仕上げ」)は、繊維に柔らかさ・光沢・染色性などの付加価値を付与する後加工工程である。染料の定着を促す媒染材(モーダント)や、布の風合い調整剤として硫酸第一スズが使用される例がある。染着率を高めることで発色を鮮やかにし、あるいは生地の垂れ感やハリを微調整することで、ファッション素材に求められる質感を精密にコントロールできる。

このように硫酸第一スズは「めっき用薬剤」「化学中間体」といったレッテルにとらわれず、精緻な金属加工から感性品質を左右する繊維加工まで、幅広い製造現場に溶け込んでいる。サプライチェーン担当者も、用途開拓視点で需要を再評価する価値があるだろう。