老化は細胞機能の変調を反映した現象だ。その核心に位置するのが「ニコチン酸アミドアデニン二ヌクレオチド(NAD+)」だ。NAD+は細胞内のエネルギー生産やDNA修復、さらにはゲノムの番人とも呼ばれる長寿遺伝子サーチュインの活性化に必須の補酵素である。

年齢とともに体内のNAD+濃度は減少し、エネルギー低下、修復能力の衰え、そして生活習慣病リスクの上昇に直結する。サーチュイン機能の低下は細胞バランスを乱し、加齢ダメージの蓄積を加速させる。つまり、NAD+を取り戻すことは、老化そのものに立ち向かう鍵となる可能性がある。

加齢に伴うNAD+減退に抗う実践策を整理すると次のようになる。

  • 食事:魚、鶏むね肉、ナッツ、全粒穀物などに含まれるビタミンB3(ナイアシン・ナイアシンアミド)とトリプトファンを意識的に摂取し、NAD+合成に必要な前駆物質を補給。
  • 運動:適度な有酸素運動と筋力トレーニングを組み合わせることで、エネルギー需要の増大がNAD+生産を刺激。
  • 生活習慣:慢性的なストレス管理と7〜8時間の質の高い睡眠で基礎代謝を整え、自然なNAD+産生をサポート。

NAD+サプリメントの研究も進むが、現時点で最も証拠力が高いのは「バランスの取れた食事+継続的な運動+生活リズムの見直し」の三本柱だ。NAD+レベルを適切に保つことで、老化の副作用を抑制し、健やかな日常をより長く享受できるだろう。