日本・東京 – 進行性大腸がん治療において、遺伝子変異を標的としたパーソナライズ医療が大きな進化を遂げている。特にKRAS G12C変異を有する患者層に対し、新たな併用療法「Adagrasib(アダグラシブ)+Cetuximab(セツキシマブ)」が注目を集めている。2剤の相乗効果により、がんの駆動遺伝子変異を直接かつ網羅的に抑制することに成功した。

CetuximabはEGFR(表皮成長因子受容体)を標的とするモノクローナル抗体であり、標準治療として長らく使用されてきた。ただし、KRAS遺伝子に特定の変異があるとEGFRシグナル経路を迂回してしまい、治療効果が制限されることが課題だった。そこで登場するのがKRAS G12Cを選択的に阻害する経口小分子薬Adagrasibである。変異型KRAS蛋白質を直接不活化することで、EGFRインヒビターに対する耐性メカニズムを封じ込める。

米国FDAは既に、この併用療法を、フルオロピリミジン製剤、オキサリプラチン、イリノテカンを含む既往治療歴を持つKRAS G12C変異陽性局所進行・転移性大腸がん成人患者に対する次世代治療として承認済みである。臨床試験では、単剤療法と比較して奏功率と奏功期間が統計学的に有意に改善され、がん抑制の持続性が示された。

治療の導入を検討する際、患者はAdagrasibに関連する副作用、並びにCetuximab関連の皮膚障害や輸液反応などにも留意する必要がある。医療チームは効果と有害事象を継続モニタリングし、副作用コントロールや用量調整を適時実施する。KRAS G12C変異の正確な検査結果が確定していることが治療適応の前提であり、最新の次世代シーケンサー(NGS)を活用した遺伝子プロファイリングが必須だ。

今回のAdagrasib/Cetuximab併用療法は、 precision oncology(精密腫瘍学)の進化を象徴する一歩であり、KRAS G12C変異をもつ頑固な腫瘍に対する戦略的攻撃の新モデルとなり得る。早期の分子診断と併せて用いることで、より効果的で副作用の少ないがん治療へと道を拓くものと期待されている。