東京 – ヒト医療では“最後の砦”とされる抗菌薬コリスチン硫酸(Colistin Sulfate)が、実は畜産・家禽分野でも欠かせない存在だ。

同薬はサルモネラ、大腸菌、パスツレラなど主要なグラム陰性菌に高い活性を示すため、豚・鶏・牛をはじめとする複数の畜種で消化器感染症の治療・予防に幅広く利用されている。とりわけ新生仔や幼齢動物に多い病原性大腸菌(E. coli)によるコリバシル症や細菌性腸炎への効果は高く、経口剤や経水投与製剤として市販されている。

コリスチンの作用機序は細菌外膜を標的にした膜破壊であり、既存薬剤耐性が進んだ現場でも治療選択肢として依然として有効である。配合飼料や水飲み投与に適した製剤設計により、群頭規模での迅速な感染制御が可能となっている。

一方で、家畜への安易な使用や予防的投与の継続は、人獣共通の薬剤耐性菌増殖につながるリスクがある。獣医学における抗菌薬ステワードシップの観点から、①正確な感受性検査の実施、②定められた用量・期間の厳守、③生物セキュリティの併用強化――が喫緊の課題となる。また副作用としては消化器菌群の乱れや腎機能への影響も報告されており、個体の状態に応じた処方管理が不可欠である。

近年、mcr-1遺伝子に代表される可動性コリスチン耐性菌の出現が人医・公衛の場で警鐘を鳴らしている。生産現場における継続的なモニタリングと代替防疫手法の開発が求められる中、飼養衛生管理の向上と併せて、獣医師が関与した科学的な投与判断こそが、薬効維持と食品安全性確保への唯一の道となる。

要するにコリスチン硫酸は畜産分野における重要な抗菌資源である一方、動物由来食品の安全と公衆衛生の視点から、慎重かつ適正な使用が今後ますます重視される。