植物の生育と形態形成を制御する植物成長調整物質（PGR）は、農園芸分野における技術革新の要となる。特にオーキシンは自然ホルモンとして細胞分裂・分化・伸長など多様な生理機能を司り、根の誘導や頂端優勢の維持に重要な役割を果たしている。ナフタレン酢酸ナトリウム（NAA-Na）はこうした自然オーキシンの挙動を模擬する合成化合物であり、切り花の発根促進から果実肥大まで幅広く応用されている。以下では、NAA-Naの作用機序とともに、発根、開花、果実膨大三プロセスへの実践的な効果を詳述する。

発根促進
NAA-Naを含む溶液への挿し穂浸漬処理は、短時間でアドベンティシャス根（不定根）を誘導し、通常よりも確実かつ旺盛な根の形成が期待できる。これにより、苗の安定供給や挿し木の歩留まり向上につながる。さらに、培地に微量混入する手法もあり、トレイ育苗段階での初期発根を促進できる。

開花および着果の向上
オーキシンは花芽分化から子房発達まで関与しており、NAA-Na処理により花の脱落を防ぎ着果率を高めることが確認されている。また果柄部での維管束の分化を助長し、養分の円滑な輸送を図ることで若果の早期脱落を抑制し、収量の安定化につながる。

果実肥大・品質向上
果実に散布することで細胞分裂と肥大が促進され、果実はサイズアップしながらも均整の取れた形状で成熟する。さらに糖・有機酸・アミノ酸などの転流量が増加することで糖度や外観品位も向上し、市場価値の高い高品質果実の生産が可能となる。

施用方法と留意点
葉面散布は展着剤を併用することで効果が高まる。挿し木処理では100～1,000 ppm程度を数秒浸漬し、水洗い不要。果実への処理は開花直後の微小な時期に絞ると花器への薬害リスクを低下できる。濃度や時期は栽培体系や作型ごとに最適化し、地域の指針に基づいて適用することが不可欠だ。

以上のように、NAA-Naはオーキシン様活性を持ち、発根から収量・品質確保まで一貫して貢献する強力なツールである。コストを抑えながら生産性を向上させる持続可能な栽培に向け、NAA-Naの科学的知見を現場に還元することが期待される。