フォスホン酸系化合物は上下水処理・洗剤・工業プロセスなど幅広く使用されており、その環境挙動を正確に把握することが化学物質管理の必須課題となっている。製品群の中核である合成ポリフォスホン酸は天然物とは異なり分子サイズが大きく、高度に帯電し、金属と錯形成しやすいことから、土壌や水系で残留しやすいと指摘されている。本記事ではフォスホン酸の嫌気性/好気性分解メカニズムと、それによってもたらされる生態影響を総覧する。

実環境における分解速度は、まず微生物の利用可否が決め手となる。規格試験(OECD 301 など)で代表的な工業ポリフォスホン酸 HEDP(1-ヒドロキシエタン-1,1-ジホスホン酸)や NTMP(ニトリロトリスメチレントリホスホン酸)は、活性汚泥を用いてもほとんど分解されないことが報告されている。その主因は、C–P 結合の高い安定性と金属錯形成である。

一方、リン欠乏条件下では特定の細菌株がフォスホン酸を唯一のリン源として利用できることが確認されている。同株は C–P リヤーゼ(phosphonatase)を発現し、結合を切断して無機リン酸を放出することで増殖する。しかし実環境では microcosm の組成、共存栄養塩濃度、化学種形成のバランスが分解速度に与える影響を巡り議論が続いている。

微生物分解以外にも、光分解が注目されている。鉄(III)錯体を例に挙げると、太陽光照射下で比較的速やかに低分子化し、最終的に orthophosphate (PO₄³⁻) に変換されることも確認されている。ただし、このプロセスで生成される低分子塩は水生生物に対する急性毒性レベルで安全な一方、アルガル・ブルーム促進の可能性など長期的影響を念頭に置く必要がある。

低濃度での検出も技術的ハードルとなる。Ca²⁺やMg²⁺との希薄錯体は、LC-MS/MS 分析におけるイオン化効率を低下させ、検出限界を押し上げる。ゆえに環境濃度は過小評価されがちで、リスク評価に再考が求められている。総じてフォスホン酸系化合物の残留性と潜在影響を踏まえれば、排出管理の徹底とより生分解性の高い代替物質開発が持続可能性の鍵となるのは明らかである。