原油・ガス業界では、採収効率の最大化と現場の安全確保を目指し、次世代ソリューションへのニーズが高まっている。注目されているのがポリアクリルアミド(PAM)エマルションで、特にカチオン型の処方が増進回収(EOR)、掘削液性能向上、液体ロス抑制に果たす役割が拡大している。

増進回収(EOR)におけるPAMエマルションの活用

老朽化した油田では、従来の採取方法では岩層内に約30~50%の原油が残留するといわれる。この残油を取り出すためのEOR技術にPAMエマルションが活用されている。代表的な手法は以下の通りだ。

  • ポリマー充填(Polymer Flooding):カチオン系またはアニオン系PAMエマルションを貯留層に注入することで注入水の粘度を高め、スイープ効率を改善。油を生産井まで効率よく押し流し、水との移動度比を低減する。カチオン系かアニオン系を選択する際は、貯留層の塩分濃度や岩石表面特性に応じて決定される。
  • 摩擦圧力低減:ハイドロフアクトチャリング(水圧破砕)ではPAMエマルションを流体に添加して管線内摩擦を抑える。ポンプ効率向上とともに、破砕液・プロッパントの貯留層への搬送がスムーズとなり、生産性が向上する。

低濃度で高粘度溶液を形成できるPAMの特性により、回収率の向上とコスト削減の両立が実現している。

PAMエマルションを掘削液添加剤として活用

掘削では、ドリルビットの潤滑、岩屑の表面搬送、ボアホールの安定化といった多機能が要求される。PAMエマルションは複数の役割を担っている。

  • 粘度制御:液の粘度を適切に調整し、岩屑を懸濁・搬送できる最適レオロジーを維持する。
  • シェール安定化:カチオン性PAMがシェール層の粘土鉱物と相互作用し、水和膨潤を抑制。ボアホール壁の安定化と液ロスを防止する。
  • フィルタロスコントロール:ボアホール壁にフィルターケーキを形成し、掘削液が地層へ過剰に侵入することを防ぐことで、浸水による生産層ダメージや掘削効率低下を回避する。

現場での取り扱いやすさと複合的な効果から、PAMエマルションは掘削液処方のスタンダードになりつつある。

石油・ガスアプリケーションにおける主なメリット

  • 増産: EOR実施により回収率が10–30%向上するケースが報告されている。
  • 掘削効率の向上: 最適化されたレオロジーとシェール安定化により、ROP(穿孔速度)の向上とトラブルの減少を実現。
  • コスト競争力: 低添加量で高効果を発揮することから、大規模油田でも経済合理性が高い。
  • 環境配慮: 近年の処方では生分解性を高め、毒性を低減するなどサステナビリティも考慮された製品開発が進んでいる。

ポリアクリルアミドエマルションは、採収率向上、掘削最適化、フィールド全体の生産性改善に貢献する革新的ケミカルソリューションとして、今後も石油・ガス業界で欠かせない存在となる。