スペシャリティケミカルはモダンマニュファクチャリングを支える無名の英雄であり、あらゆる産業におけるプロセス効率化と製品性能向上を可能にしている。そのなかでも陰イオン系界面活性剤ラウリル硫酸ナトリウム（SLS）は、洗剤やパーソナルケア製品での日常的な用途にとどまらず、幅広い産業用途へと機能を拡張させている。

たとえば繊維業界では、SLSは染料や各種フィニッシュ剤を生地に均一に吸収させるための湿潤剤として活用される。表面張力を著しく低下させることで液剤が繊維表面にムラなく広がり、色ムラの少ない均質な染め上がりを実現する。また染色・プリント工程では分散剤として働き、染料粒子の凝集を防ぎつつ懸濁状態を維持し、鮮やかで再現性の高い色付けを可能にしている。

さらに産業洗浄の現場では、強力な脱脂力と優れた乳化性能により、エンジンデグリーザーや床洗浄剤、金属洗浄剤などに配合される。厳格な性能が要求される石油・ガス業界では増進油回収（EOR）技術に採用されており、油層内に残留した原油と注入水の界面張力を下げることで採取効率を飛躍的に高めている。紙パルプ業界でも、再生紙の脱インキ工程でインクを効果的に除去するデインキング剤として用いられ、サステナブルな製紙を実現する一端を担っている。

水系での広範囲pH耐性と優れた生分解性を併せ持つSLSは、化学プロセスの効率化から資源回収技術の高度化まで、多様な局面で高パフォーマンスな“産業用ケミカル”として欠かせない存在となっている。