脳は人体でもっともエネルギーを消費する臓器の一つであり、酸化ストレスの影響を大きく受けやすい部位だ。そんな脳を守るための鍵となるのが「体内最強の抗酸化物質」とも呼ばれるグルタチオン(GSH)である。近年の研究は酸化ストレスと認知症など神経変性疾患の進行との関連を次々と明らかにしており、グルタチオンが果たす神経保護効果への関心が高まっている。

活性酸素と抗酸化物質のバランスが崩れることで引き起こされる酸化ストレスは、神経細胞を損傷させ機能低下を招くだけでなく、パーキンソン病やアルツハイマー病の進行を加速させるともされる。特に脳は酸素消費量が多く、酸化されやすい多価不飽和脂肪酸が豊富に含まれるため極めて脆弱。グルタチオンは脳内でこの脅威に立ち向かう「第一防御ライン」として、活性酸素を中和し神経細胞を守る役割を担っている。

実際、パーキンソン病やアルツハイマー病と診断された患者では、脳内のグルタチオン濃度が健康人よりも低いという知見が相次いで報告されている。特にパーキンソン病では、ドーパミン産生神経が集まる「黒質」で酸化ダメージを受けた細胞が減少するが、これらの神経にはグルタチオンが大量に必要とされる。現在、アメリカを中心に点滴で高濃度グルタチオンを投与する臨床試験が進められており、初期の結果として運動機能の改善が観察されている。ただし、確固たる効果を示すにはさらなる大規模研究が必要だ。

アルツハイマー病の場合は、アミロイドβプラークやタンパクタングルの蓄積に酸化ストレスが関与しており、グルタチオンの抗酸化・解毒作用がこれらの異常タンパク質蓄積を抑制し、認知機能の低下を緩和する可能性が指摘されている。しかし、経口摂取したグルタチオンが実際にどこまで脳内に届くかはまだ結論が出ておらず、吸収効率を高める技術や別の補助物質との併用も検討されている。

体内のグルタチオン合成を助けるには、まず食事がポイントになる。ケールやブロッコリーなどアブラナ科野菜、ニンニクやネギなどネギ科野菜に多く含まれる「イオウ成分」、タンパク質を構成するアミノ酸を十分に摂ることで基礎代謝量がグレードアップし、脳内でも必要量のグルタチオンが生成されやすくなる。また、N-アセチルシステイン(NAC)などのサプリメントは体内でグルタチオンの原料に変換されることから、専門医の指導のもと活用する選択肢も検討できる。脳の酸化に対する「常備軍」として、食事、運動、ストレス管理、必要に応じた医療的サポートを組み合わせることで、生涯を通じた神経保護に繋がるのではないだろうか。