日本では日常の頭痛や解熱でもおなじみのアセチルサリチル酸(一般名:アスピリン)。その優れた鎮痛・抗炎症・抗血小板作用は既に広く知られているが、それだけにとどまらない。最近では、薬物送達を最適化し、副作用を抑え、患者の服用しやすさ(コンプライアンス)を高めるための様々な剤形が開発され、臨床現場に導入されている。

各剤形は、放出速度の精密制御、胃障害リスクの低減、または服用方法の簡便化といった目的ごとに設計されている。製薬メーカーは、製造段階でアスピリンの物理化学的性状(溶解性・安定性など)を踏まえ、適切な賦形剤やコーティング技術を選択している。

主要なアスピリン製剤とそれぞれの特徴は以下の通りである:

  • 速放性錠剤:最も一般的で、製剤が胃内で素早く崩壊・溶出し、痛みや発熱に対して即効性を発揮。バインダーや崩壊剤などの賦形剤が含まれることで、錠剤強度と溶解バランスを両立。
  • 腸溶錠:酸性の胃では溶けず、腸内アルカリ環境で溶けるコーティングを施すことで胃への直接刺激を軽減。一方、吸収が遅れるため抗血小板効果が個人差でばらつく場合がある点は留意が必要。
  • 緩衝アスピリン:アルミニウム水酸化物、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウムなどの制酸剤を配合。胃酸を中和して胃刺激を和らげつつ、比較的早い吸収を可能にする。
  • エフレッセセント錠:水に溶かしてから飲むため、炭酸ガスが放出し薬物を瞬時に分散。クエン酸+重炭酸ナトリウムとの併用で吸収速度が向上し、嚥下困難者にも飲みやすい。
  • 咀嚼錠:子どもや経口摂取が困難な患者向けにフレーバー付きで設計。咀嚼することで速効性を維持しながら、ソルビトール・マンニトールなどの希釈剤で飲みやすさを追求。
  • 徐放製剤:一般的な鎮痛適応ではあまり用いられないが、長期投与が必要な特殊治療においては血中濃度を一定に保てるよう設計されている例もある。

適切な剤形は治療目的によって異なる。急性の頭痛・発熱なら速放錠やエフレッセセント剤が、心血管疾患の二次予防では腸溶錠など安定した吸収プロフィールが望まれる。原料原薬メーカーは、それぞれの製剤設計に適したグレードのAPI選定が不可欠である。

副作用リスクを抑えながら治療効果を最大化する新たなアスピリン製剤の開発は現在も活発に進められている。中間体供給企業にとって、これら剤形状況を理解し、自社製品との適合性を踏まえた原料供給戦略を立てることが競争優位につながる。