食品・飲料業界では「清浄なラベル」や「体に優しい」といった消費者の志向が強まり、天然由来原料への転換が顕著になっている。フレーバーもまた然りで、ナチュラル系の表記が買い手の安心感を醸成する要素の一つとなった。だが、天然エキスは収穫ロットごとに香りにばらつきが生じやすく、製品の安定供給には課題が残る。その補完に使われるのが「天然と同一(ナチュアーアイデンティカル)」化合物であり、今回焦点となる2-アセチルチアゾールはその代表例だ。

2-アセチルチアゾール(CAS番号:24295-03-2)は、じゃがいもやトウモロコシをローストした際に自然に生じる香気成分で、ナッツのような“焼き立て”の芳ばしさを際立たせる。実験室でこれと同一の化学構造を再現すれば、香り強度や純度をロット間で一定に保てる。天然由来であっても天然由来でなくても、分子そのものが同じなら違和感ゼロだ。

フレーバリストにとって、成分組成の再現性は味わい品質の生命線である。たとえばポテトチップスの“焼きコーン”風味を毎日同じように再現するには、天然エキスだけでは限界があり、2-アセチルチアゾールのようなナチュアーアイデンティカル成分が効く。消費者は“添加物ではなく、本来ある味”と認識しやすいため、総じて違和感を覚えにくいという強みもある。

ポイントはサプライチェーンの確保だ。ナチュアーアイデンティカル製品は食品添加物規格に適合している必要があり、原料由来や製法履歴を示す証明書の提出が求められる。サプライヤー選定の際にはCOA(分析成績書)、残留農薬試験報告、清真・ヴィーガン認証の付与状況を綿密に確認し、メーカーのブランドイメージを守る体制を整えるべきである。

総じて、ナチュラルフレーバー志向は今後も根強く続く。しかし、単純に“天然由来100%”に固執すれば、香りの安定供給コストが跳ね上がり、時価変動に翻弄されるリスクも高まる。2-アセチルチアゾールのようなナチュアーアイデンティカル化合物は、天然感を演出しつつ科学の精度で品質を担保する“ハイブリッド選択肢”として成熟した市場に溶け込んでいる。