微結晶セルロース（Microcrystalline Cellulose：MCC）は、植物細胞壁に豊富に含まれる天然高分子セルロースを高純度に精製・微細化した高機能材料です。製法はα-セルロースを酸加水分解させ、アモルファス領域を選択的に分解し結晶性のみを残したマイクロサイズフラグメントとして回収。得られる白色無臭無味粉末は、水に対してほぼ不溶だが膨潤し、優れた賦形剤として求められる基本特性を兼ね備えています。

MCCの骨格はグルコースがβ-1,4-グリコシド結合で直鎖状につながったセルロース本来の構造を維持し、高い機械的強度と化学的安定性を付与します。実際の性能は物理性状が決め手となり、粒径分布・結晶度・比表面積が最も重要です。たとえば、製剤現場で広く用いられるMCC 101（微粉）とMCC 102（粗粉）は、平均粒径が約50 μm と約100 μm と異なり、前者は成形性に優れる一方流動性に配慮が必要で、後者は流動性が向上する代わりに圧縮時に若干の配慮が必要になります。

MCCが特筆されるのは高い圧縮成形性にあります。圧縮下では粒子が塑性変形を起こし、新たな接触面を多数生成。セルロース分子間の水素結合が担う凝集力により、硬度が高くフライアビリティの低い錠剤を簡便に得られます。このため直接圧縮錠でのバインダーとして最適で、工程の簡略化とコスト削減に貢献します。

さらにMCCは適度な比重を備えた優れた希釈剤・增量剤として、少量しか配合されない高効価APIでも正確な重量の錠剤を製造できるようにします。薬理活性を示さず主要なAPIとも反応しない不活性設計は、製品の化学的安定性を長期にわたり担保。錠剤内での崩壊促進（ディスインテグラント）効果も併せ持ち、服薬後の素早い崩壊による薬物放出と吸収を助長します。

MCCの科学的設計思想——原料セルロースの分子設計から最適化された微粒子形態にいたるまで——は、医薬品のみならず食品・化粧品の幅広い製品開発で不可欠な理由にほかなりません。現在市販される医薬品グレードおよび食品グレードでは、粒径規格の厳格管理と純度の確保に巨額の品質保証投資が続けられており、それが高品質かつ安定性に優れた最終製品を支えています。