多発性硬化症(MS)や潰瘍性大腸炎(UC)といった慢性炎症・自己免疫疾患の治療は、劇的な進化を遂げている。スフィンゴシン-1-リン酸(S1P)受容体選択的作動薬オザニモド(ゼポシア)は、その潮流に一石を投じる革新的剤と位置づけられている。本稿では、MS・UCの両疾患を対象に、オザニモドと現在使われる各種治療薬を作用機序、効能、安全性、投与方法の観点から整理し、独自の価値を検証する。

多発性硬化症治療へのインパクト MS治療では、注射・点滴投与が一般的であった従来の経腸製剤に対して、オザニモドは経口1日1回という画期的な代替手段を提供する。従来インターフェロンなどの注射剤は長年のスタンダードだったが、内服薬としての利便性は患者のQOL向上に直結する。また、非選択的S1P作動薬フィンゴリモドと比較し、心臓関連副作用を含む忍容性のリスクがより低く期待される、受容体S1P1およびS1P5への選択的結合が特徴だ。

さらに、従来の経口DMT(疾病修飾薬)と比べても、S1P受容体への高い選択性が奏功し、再燃抑制とMRI病変減少に関する独自のエビデンスが得られている点を強調したい。

潰瘍性大腸炎治療における役割 中等症~重症の活動期潰瘍性大腸炎では、アミノサリチル酸製剤・ステロイド・免疫調節薬・生物学的製剤が治療オプションに並ぶ。既存抗TNF-α抗体製剤アダリムマブとの間接比較では、抗TNF不応例へのアプローチで臨床効果と内視鏡所見改善に優位性を示したとの報告がある。さらに、治験データで示される感染症リスクの低さと共に、内服投与という利点は、注射が苦手な患者にとって大きな福音となる。

ステロイドを使わない缓解維持の新たなロードマップとして、オザニモドは注目を浴びている。

選択する際の考慮ポイント MS・UC両疾患において、オザニモドの治療選択を検討する際には、「作用メカニズム」「エビデンスレベル」「忍容性」「薬物相互作用」「モニタリング体制」の5点に注意が必要だ。個別の病状、既往治療反応、合併症、生活スタイルを総合的に勘案し、医師と患者が共同で意思決定することが重要である。

開発の背景には、S1P受容体選択的作動薬の理論を極め、効果最大化とリスク最小化を目指した長期に及ぶ研究がある。今後はリアルワールドデータの蓄積とともに、位置づけは一段と明確になっていくとみられる。