全世界で数億人を悩ませる生活習慣病・肥満。その治療選択肢が新たな局面を迎えている。注目を集めるのは「マズデュタイド(mazdutide)」と呼ばれるペプチド系新薬だ。GLP-1(グルカゴン様ペプチド-1)受容体とグルカゴン受容体の両方を同時に活性化するデュアルアプローチで、従来の単一受容体作動薬を一歩先の戦略を示している。国内第III相試験「GLORY-1」は、体重減少効果と関連する心代謝指標の改善を確実に示し、マーケット投入へ向けた最終関門をクリア。以下では、メカニズムから臨床データ、安全プロファイルまでマズデュタイドの全貌をまとめた。

二本の鍵を同時に開けるデュアルメカニズム

マズデュタイドは、体内のGLP-1受容体(GLP-1R)とグルカゴン受容体(GCGR)という二本の重要なレバーに同時に作用する。

  • GLP-1R 活性化により空腹感を抑制し、胃内容排出を遅延させて摂取量をカット。
  • GCGR 活性化によりエネルギー消費を高め、脂肪代謝を強化。

肥満治療薬としては初めて、この相乗的メカニズムにより従来薬を超える総合的なメタボリック改善を目指す。

臨床データ~GLORY-1試験の主要結果~

中国成人肥満患者を対象とした第III相試験(GLORY-1)では、4 mg と 6 mg のマズデュタイド群はプラセボ群に対して統計的に優位かつ臨床的に意味のある体重減少を示した。他にも以下のメリットが確認された。

  • 収縮期・拡張期血圧の低下
  • 脂質プロファイル改善(LDL-コレステロール減少、HDL-コレステロール増加)
  • 血清尿酸値の軽快
  • 肝脂肪量の減少

これらは心血管リスクの低下にも直結し、単なる体重計の数値にとどまらない真の“メタボリカル”な改善と評価されている。

安全プロファイルと実臨床での活用ポイント

主な副作用は悪心・下痢・嘔吐などの消化器症状であり、ほとんどが導入期の用量漸増中に現れ、時間経過とともに軽度化・消失する傾向が示された。治療中止率はプラセボと同等に留まり、長期的な使用が可能であるとの見方が得られている。今後のアウトカム研究では、肥満合併症(糖尿病予防、心血管イベント抑制など)への影響も注視される。

中国国家医療製品監督管理局(NMPA)が2023年に承認したことで、マズデュタイドは世界初となるGLP-1/GCGR デュルアゴニストとして使用可能に。これは薬歴に新たな1ページを刻む出来事であり、医療提供者と患者にとって“希望の薬”となる可能性を秘めている。マズデュタイドは多様な肥満表現型に個別化アプローチをもたらす新旗艦薬として、治療スタンダードの更新に貢献するのは間違いない。