膵がんは初期症状が乏しいため、診断時にすでに局所進行または遠隔転移を来している症例が少なくない。こうした難治がんへの対応策として、近年注目されているのが分子標的药物エルロチニブである。EGFR(上皮増殖因子受容体)チロシンキナーゼを選択的に阻害することで、がん細胞の増殖シグナルを遮断するのが大きな特徴だ。

現在確立されているエルロチニブとゲムシタビンによる併用療法は、それぞれ異なる作用点を持つ薬剤を組み合わせることで、膵がん細胞へ複数方面からアプローチする。ゲムシタビンはDNA合成を阻害する抗がん剤であり、エルロチニブはEGFR経路の異常な活性化を抑制する。本併用法は、局所進行で手術不能、または転移を有する膵がん患者の予後改善に効果を示している。

エルロチニブの作用機序は、EGFRの自律的なリン酸化を阻止することで細胞増殖や血管新生を抑制。内服薬であるため外来治療が可能だが、副作用モニタリングの観点から定期的な医療機関受診は必要不可欠である。

一方、治療にあたってはエルロチニブの副作用にも注意が必要だ。発疹、下痢、倦怠感などが頻繁に報告されており、QOL(クオリティ・オブ・ライフ)に影響を及ぼすこともある。医療チームは副作用早期に気づき、用量調整や対症療法で症状コントロールにあたる。また、エルロチニブとの薬物相互作用も見過ごせない。併用薬・サプリメントを含め全ての内服薬を事前に精査し、本剤投与前に相互作用リスクを評価することが重要だ。

今後もエルロチニブを含む標的治療薬の開発および併用療法の最適化が進めば、膵がんという治療困難な疾患の生存予後は一段と改善すると期待される。また、エルロチニブ合成に関わる高品質API(医薬品原薬)の安定供給も、患者へ新たな治療選択肢を届ける鍵となる。