腸と脳は意外なほど密接につながっている。近年、腸内細菌叢と精神状態や認知力との関係「腸‐脳軸（gut-brain axis）」に、植物由来化合物のテロスチルベン（PTS）が着目されている。米国を中心とした複数の研究グループの前臨床試験で、PTSが腸内の善玉菌比率を高めるだけでなく、感情と記憶に好影響を与える可能性が示された。

ブルーベリーやリンゴなどに含まれるテロスチルベンは、構造的にレスベラトロールと似た抗酸化ポリフェノールだ。ラット実験では、PTS投与により腸内でビフィズス菌やアッカ菌といった有益株が増加し、炎症性サイトカインが低下。この腸内環境の変化が、セロトニンやドーパミンの前駆体産生にも連鎖的に関与し、不安軽減効果と長期記憶の向上が確認された。

さらに、PTSは高い脂溶性により血液‐脳関門を容易に通過。老化に伴う海馬ニューロンの酸化ストレスを抑えることが報告され、アルツハイマー病因物質の蓄積リスクを低下させる神経保護作用も示す。これまでの動物モデルでは、既存の抗不安薬のような運動機能への副作用は全く認められていないという。

自然由来でありながら腸と脳を同時に整えるテロスチルベンの特性は、スマート・ウェルネスの新時代における天然素材として注目を集めそうだ。今後の臨床試験の進展に期待が高まる。