診療の現場では、慢性疾患を抱えるワンちゃんの飼い主から「どうすれば生活の質が向上するか」をよく聞かれます。とりわけ犬に多い副腎皮質機能亢進症（クッシング症候群）では、トリロスタンが“標準治療”となっています。この薬の仕組みとポイントを理解してもらうことで、飼い主と獣医師が連携し、愛犬の快適な日々を取り戻す狙いです。

トリロスタンの働きとは

ベトリル®として知られるトリロスタンは、合成ステロイドで酵素「3β-ヒドロキシステロイドデヒドロゲナーゼ」を阻害します。この酵素は副腎でステロイドホルモン（主にコルチゾール）を合成する際に欠かせません。クッシング症候群ではコルチゾールが過剰に作られ、多飲多尿・腹部膨満・被毛変化・だるさなどが現れます。トリロスタンはその生産を抑えることで症状を緩和し、犬への効果的なクッシング対策となります。

用量設定と継続モニタリング

トリロスタンはカプセル剤で、犬の体重や重症度に応じて個別に処方されます。食事中に投与することで胃腸障害のリスクを抑えられます。治療成功のカギは「定期的なACTH刺激試験」にあり。これにより血中コルチゾールをチェックし、薬の量を最適化。飼い主の皆様には指示通りの用量と検査スケジュールを厳守していただくことが不可欠です。

留意すべき副作用・使用上の注意

一般的にはよく耐えられますが、初期に眠気・嘔吐・下痢・食欲不振がみられることがありますまれにコルチゾールが急激に低下し、アジソニア（副腎機能低下）危機を引き起こすことも。早期の受診が必要です。腎・肝障害持ち、妊娠中、併用薬がある犬では使用を避ける場合も。異変を感じたらすぐに獣医と相談ください。

生活の質を取り戻すためのトリロスタン

トリロスタンは根治ではありませんが、驚くほどの改善例が報告されています。投与数日〜数週間でエネルギー回復・遊びへの意欲・過剰な水分摂取の軽減などが見られることが多いです。飼い主は「以前のワンちゃんが戻ってきた」と語ることも。きちんとモニタリングしながら継続すれば、長く快適な生活を送らせてあげられます。トリロスタンを検討される際は、まず獣医師と話し合ってください。