コリスチン硫酸、抗菌薬耐性との闘いに「最後の砦」として再浮上
抗菌薬耐性(AMR)は世界規模で深刻化する公衛生上の脅威である。治療選択肢が枯渇する中、コリスチン硫酸が再び注目されている。特に多剤耐性グラム陰性菌による重症感染症の切り札としての期待が高まり、本記事ではその作用からクリニカルピットまでを詳述する。
コリスチン硫酸はポリミキシン系に属し、1950年代から臨床で使用されていた“古参”の抗菌薬だ。しかし、近年シュードモナス・オーギノーザ、アシネトバクター・バウマニ、そしてカルバペネム耐性腸内細菌科(CRE)などへの高い活性が再評価され、“最終手段(last-resort)薬”として復活した。他剤効果不奏の難治例に、どのように活用すべきか──現在の診療現場が直面する問いである。
作用機序の決め手は細菌細胞膜への特異的アプローチにある。外膜と細胞膜の双方を破壊し、細胞内容物の流出を引き起こすことで速やかに殺菌する。この点がβラクタム系やフルオロキノロン系など標的酵素を狙う“伝統的”な抗菌薬とは異なり、既存耐性メカニズムを回避できる要因となっている。
再利用の背景には、新規薬開発の停滞に加え、既存薬への耐性加速度的拡大がある。ただし、“最終手段”であるがゆえに、抗菌薬適正使用プログラム(STewardship)との連携が不可欠だ。使用適応、投与量、投与期間を厳格に管理することが、コリスチンの有効性を将来にわたって維持する唯一の道となる。
主な副作用は腎毒性と神経毒性だ。特に腎機能障害のリスクが高く、投与中の腎モニタリングは必須。リスクを最小化するため、最新の用量設計や薬物モニタリング(TDM)が推奨されている。それでも救命が最優先と判断される場合、利益は明確にリスクを上回る。
さらに気がかりなのは遺伝子レベルの耐性獲得である。mcr-1遺伝子に代表されるプラスミド媒介型コリスチン耐性が世界各地から報告され、早期監視体制の構築が急務。治療薬の限界に直面する今、新規感染症研究用試薬や革新的アプローチへの投資は欠かせない。
結論として、コリスチン硫酸は抗菌薬耐性時代の“最後の砦”として欠かせない武器である。科学的知見に基づく適正使用と副作用管理、そして耐性監視の継続こそが、これからの医療と公衆衛生を守る鍵となる。
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