キズ口の殺菌といえばポビドン・ヨード（PVP-I）というイメージが強いが、実は抗菌スペクトラムの広さと安全性から、医療・工業分野でもさまざまな用途に活用されている。ここではその多彩な応用事例を俯瞰しながら、根底にある科学メカニズムを紐解く。

医療現場では、外科手術前の消毒や術野滅菌、医療従事者の手指衛生といった基本フローから外せない存在だ。術前スキンプレップの際、PVP-Iを塗布することで皮膚常在菌を劇的に減少させ、手術部位感染を予防する。また、強力な殺菌力と組織親和性を両立できるため、小児科や高齢者の創傷処置でも選ばれている。

獣医学の世界でも同様に威力を発揮する。皮膚創傷の洗浄、手術部位の消毒、さらには哺乳類・鳥類、そして水生動物を含むあらゆる動物の健康管理における汎用消毒剤として、信頼が厚い。

産業界では、PVP-Iは工業用水のバイオコントロール剤や製造ラインの殺菌剤として採用される。微生物汚染を許さない醸造、製薬、化粧品工場のクリーンルームでは、冷却水系統や包装ラインへのワンショット添加により、菌膜形成を防止し、製品品質の維持に貢献している。

剤形も多様で、溶液剤、スプレー剤、軟膏、サポジトリー、さらにはガーゼやフォームなど応用製品が展開。用途に応じた最適形態を選択でき、使い勝手の幅は過去に例を見ない。

一方で、副作用や適切な使用方法への留意は不可欠。ヨードアレルギーの既往や甲状腺機能異常の患者では用量・適用部位に配慮が必要だ。将来的には、ナノキャリアによって徐放性を付与した新製剤や、MRSA やバイオフィルム耐性を克服する戦略製剤の研究も進んでおり、PVP-I を中心とした次世代感染対策への期待は高い。