工業用水管理において、スケールの形成や腐食といった悪影響を防ぐことは、設備寿命向上と運転効率化の要です。ケイ素を含むオルガノリチウム化合物の一種「フォスホン酸塩」は、近年その役割が急増しています。独自の分子構造が金属イオンと強固に結び付くキレート作用により、スケールや腐食の原因となる金属成分を効率的に封じ込めることで、フォスホン酸塩水処理は石油・電力・鉄鋼あらゆる分野で採用されています。

フォスホン酸塩が示す最大の特徴は“閾値阻害作用”です。化学量論的に反応する従来の薬剤とは異なり、結晶表面に物理吸着することで炭酸カルシウムなどタルクが成長するのを物理的に阻害します。そのため1桁低いppmレベルでも高いスケール抑制効果を発揮し、薬剤の再生繰り返し作用とも相まってコストも大幅に削減できます。

さらにフォスホン酸塩は、腐食を促進する金属イオンの電気化学反応を抑えることで防食効果も併せて発揮します。1つの薬剤でスケール抑制・腐食防止の二つの効果を引き出せるため、冷却水系や海水淡水化プラント、油田周辺設備など苛酷条件下でも長期安定運転を可能にし、フォスホン酸系金属封鎖剤水処理は工業用水化学の基幹技術として確固たる地位を得ています。

独自の分散性能も兼ね備え、浮遊粒子の凝集・沈殿を防ぐことで熱交換器の伝熱効率を維持します。今後、持続可能な水資源管理にも欠かせないフォスホン酸塩の可能性は、新しい誘導体の開発とともにさらに拡大していくことでしょう。